鯖棒亭日乗(下)

日常の記録写真と駄文  sababoutei@gmail.com

2017年ブエルタ第20ステージ

2017年ブエルタ・ア・エスパーニャ

第20ステージ

ついにこの日が来た最終決戦アングリル

最後の超級山岳アングリル一発で数分の差も簡単に引っ繰り返せる可能性を秘めている

そして泣いても笑っても、シッティングでもダンシングでも

引退レースのコンタドールが最後に輝く山岳ステージである

今年のブエルタはいきなりバッドディを迎えて総合成績を大きく落とした

しかし連日のアタックアタックで総合5位まで這い上がってきた

まだまだ総合優勝の可能性も0では無い

フルームといえどもアングリルの途中でお腹が空いてしまうかもしれない

そんな時におやつをデリバリーしてくれるリッチーはいない

正直今年のブエルタは総合成績関係なく常にフルームとコンタドールの戦いだったような気もする

二人が山で勝負できるのはこれが最後だ

その距離117・5キロと短い

中盤から一気に1級1級と超えてアングリルだ

レース当日はあいにくの雨模様

スタート直後から一矢報いたい選手たちが飛び出す

激しいアタック合戦

結果が出せていないエースの意地

昨日に引き続きロッシュやルイコスタも逃げに乗ってくる

イェーツ兄弟も二人仲良く乗ってきた

バルデ、アラフィリップ、アントン

すでにステージ取っているマルチンスキーやデニフルも逃げてきた

その数18人

アングリル目指して逃走劇の始まりだ

メンバー的には十分に登れる選手が揃っている

スカイが見逃してくれれば十分に逃げ切りは可能だ

メイン集団はスカイがコントロール

逃げとの差は1分近くまで開く

すると早くも赤黒の列車が前に出てくる

コンタドール率いるトレックだ

フルメンバーの8人でメイン集団を引き始める

これは明らかにステージ狙いの動き

そのためにこれ以上差を開かせてはマズイ

コンタドール最後のステージ優勝に向けてチーム一丸で牽引する

差は1分のまま推移する

果たしてどこまでトレック列車は耐えられるのか?

この間にもスカイを始めバーレーンにカチューシャ、サンウェブなどライバルチームはアシストを温存している

しかしコンタドールのステージ優勝を実現するにはこの日で足が終わったとしても引くしか無いのだ

すると突然水色のジャージが2名ほど前に出てくる

アスタナだ

ミゲルアンヘル・ロペス、アルのための動きなのか?

チーム総合の動きなのか?

それともヴィノクロフ大佐からの指令なのか?

そういえばコンタドールもアスタナにいたんだよな

突然現役復帰してきたランスとの確執、嫌がらせ

そんなアスタナが結果的にコンタドールを助けに入る

これでトレックも少しは楽になった

逃げとの差は2分以下で保たれていく

レースは最初の一級山岳へ

すると逃げ集団は早くもバラバラに

クイックステップのマスが調子がいいようだ

前日に逃げたロッシュやルイコスタ、レース全体を通して動いてきたアラフィリップも遅れる

そしてチーム全体が体調不良で苦しんだアントンもここで遅れた

メイン集団はボーラも牽引に加わる

マイカのステージ狙いだろう

以外とトレックが頑張ってくれたので逃げを捉えてのステージ争いに便乗したいのだろう

そのために「少し唾をつけおくか・・・」的な引きだ

すると今度は赤い軍団カチューシャもトレインで上がってきた

ザッカリンの総合争いの準備だ

さらにサンウェブとクイックステップも出てくる

やがてトレックの勢力が衰えると再びスカイがコントロール

逃げとの差は広がり1分40秒に

すると満を持して金色のヘルメットのバーレーンが出てくる

各チーム思惑が一致する

今こそ団結してスカイに一泡吹かせたい

いい加減スカイのケツを拝むのも嫌になってきたんだろう

結果的に助かるコンタドール

トレックは既に平坦アシストを使い果たしてしまった

しかしこれまた結果的にスカイはアシストを温存できることになる

この日もレースはスカイの手のひらの上で動いていく

スカイとしてはステージ優勝には特別興味は無い

とにかく総合ライバル勢にくっついて行けばいい

金魚の糞のように

トレンティンは登りで遅れる

この日のスプリントポイントはゲットならず

山頂までは何事もなく通過

雨の下りでニバリが飛び出す

雨の下りなのに時速88キロ

コーナーですら時速50キロで抜けていく

結果的にこの下りでニバリは抜け出せなかったが

ザッカリンとミゲルアンヘル・ロペスが遅れた

先ほどのアスタナの仕事はなんだったのか?

結果が出ないエースのために仕事するアシスト

アシストの頑張りに答えられないエース

どちらもツライ

最初の一級を下るとスプリントポイント

そして再び1級山岳が直ぐにはじまる

メイン集団はバーレーンを先頭に2つ目の1級山岳へ突入

パンタノに引かれてコンタドールも前の方に位置する

逃げから落ちてきた選手がどんどん吸収され吐き出されていく

パンタノがコンタドールアタック布石のためのペースアップをする

少しでも集団を小さくしたい

ライバルチームのアシストを削りたい

コンタドールはスカイ列車の後ろで待機する

先頭の逃げ集団からはソレルがアタック

差を広げていく

メイン集団は依然としてパンタノがハイペースで引いている

今度はアスタナのアルも遅れる

ガシガシ大きく体を揺らしながら遅れる

こうなった時のアルはどうにもならない

安定感さえあればもっと勝てる選手なのに

下りで遅れたザッカリンだがなんとかメイン集団に追いついてくる

粘り強さはさすがだ

そしてパンタノはコンタドールの位置を確認しながらもまだ引き続ける

先頭の逃げ集団も抜け出し遅れ復帰を繰り返しながら走る

主なメンバーはソレル、マルチンスキー、バルデ、イェーツ兄弟、マス

メイン集団は遅れていたデラクルスが集団復帰すると同時にそのままカンターアタック

前でチームメイトのマスが待っている

早く行かねば

約束の時間に間に合わない

先頭からはバルデがアタック

マルチンスキーがチェック

カウンターでソレルがアタック

山頂をトップ通過

逃げが山岳ポイントを消してくれたおかげでヴィレッラの山岳賞が確定した

とっくに遅れていたヴィレッラも一安心だ

あとはタイムオーバーにならないようにゴールするだけだ

明日も水玉のジャージが着れるのだ

そして家まで持ち帰れる

こんな嬉しいことはない

2つ目の1級山岳の下りも非常に危険だ

道が狭い

そして雨で濡れている・・・

バイクも転倒

先頭ではソレルも落車した

幸いに怪我はたいしたことなくその後直ぐに復帰する

しかし優勝争いから脱落だ

メイン集団でも再び下りで仕掛けたニバリがオーバーラン

間一髪で落車は回避するがリズムを崩したニバリはそのあと下れなくなる

マスが待っている

前待ち作戦のマスに合流するべく単独で先を急いでいたデラクルスも落車

最終日目前にしてリタイアとなった

そしてエースを失ったクイックステップ

「私、待つわ」から」私、マスは」に変わる

エースを失った以上は「あみん」ではいられない

チームは逃げのマスに希望を託す

一方メイン集団

黄色い靴はいたパンタノが飛び出す

そこにコンタドールも続く

単線ながらトレック超特急の完成だ

スーパーダウンヒルを見せるパンタノに引かれてコンタドールも危険な下りを攻める

やがてマスと合流

今回もスペイン連合が急遽結成された

しかもマスはコンタドールが運営している若手育成チーム出身

マスにとってコンタドールは憧れのスーパースターであり先生なのだ

鶴の恩返しならぬマスの恩返し

このブエルタ

20ステージ超級山岳アングリルで

コンタドール現役最後の山岳ステージでできるのだ

3人となったコンタドール超特急は単独先頭のマルチンスキーから50秒遅れてアングリルへと突入した

メイン集団とは40秒

残り10キロ

とはいえアングリルだ

最大勾配23パーセント

一部区間の平均勾配も15パーセント

後半はヤギの散歩道と言われヤギかコンタしか登れない

ペーターとハイジですら途中で断念してしまうかもしれないな

マスも完全にコンタドールのアシストになっている

時折見られてきた光景

勝負のかかったレース中、コンタドールにはチームを超えたアシストが加わる

これもコンタドールの人望なのかもしれない

俺は正直コンタドールが嫌いだった

それは彼が強すぎたからだが

やがて彼は薬物に汚染された肉を食べて出場停止になる

しかもその時に出た薬物は基準値以下の微量

それも基準値の500倍から1000倍以下の量でしかない

それでも疑わしきは罰せられる自転車界

彼は天国から地獄へと落とされた

この時に今まで彼の走り見てきた俺はコンタドールは決してドーピングなんかしない選手だと

出場停止が明けてから走りでそれを証明して欲しいとコンタドールを応援するようになった

常に攻撃的な走りを見せてくれるコンタドール

彼がいないとレースはつまらなくなる

パンタノが最後の力を振り絞りコンタドールを引き上げる

少しでも先頭のマルチンスキーに届くように

平坦で仕事してくれたチームメイトの思い全て込めてコンタドールに最後のバトンを渡す

オールアウト

パンタノは完全停止した

マスよ、もう少し頼む・・・コンタドールを・・・

マスもチームを超えて全力でコンタドールをアシストする

逃げから落ちてきたサイモン・イェーツとソレルを吸収してチームコンタドールを結成する

先頭のマルチンスキーまで後30秒

サイモンもコンタドールを引く

国籍もチームも関係ない

みんなコンタドールのために何かがしたい

先頭マルチンスキーとの差を詰めてメイン集団との差を広げるチームコンタドール

残り8キロ

ついに先頭のマルチンスキーを捕まえた

しかしまだ激坂が待ち構えている難敵アングリル

勝負はこれからだ

軽やかにダンシングするコンタドール

踏み込むというより引き上げる足とともに空へ飛び立つようなダンシング

まさにダンス

羽が生えたように飛び上がり踊りだすコンタドール

そして時折見せる白い歯

コンタドールは歯が命

歯を食いしばってからのコンタドールの粘りはすごい

マルチンスキー、アダムは力を使い果たした

マスがコンタドールを見つめている

この場面に立ち会えたことがどれだけ幸せで勉強になったことか

ありがとうございます

感謝の気持ち

マスは遅れた

最後まで粘ったソレルも突然停止する

これでレースはコンタドールVSスカイとなる

逃げるコンタドール追うスカイ

メイン集団ではペリゾッティに引かれてニバリが出てくる

ベテランの元気がいいのは何よりだ

独走するコンタドール

気がつけば総合でもバーチャルで3位に浮上

ステージのみならず奇跡に総合表彰台まで見えてきた

残り5キロを切る

フルームとの差は1分

これではマズイとザッカリン、ケルデルマンが動く

すかさずフルームのアシスト、ポエルスに捕まえられる

まるでフルームのSPみたいだ

そしてニエベまで戻りフルームは二人のアシストに守られる

コンタドールのペースはまだ落ちない

なんて男だ

引退レースで

連日のアタックの中、最後の山岳ステージで

これだけの走りができるとは正直思ってはいなかった

俺は今確実に歴史が作られるのを見ている

大興奮の大観衆の中でコンタドールが登り続ける

メイン集団ではバーレーンのペリゾッティがコントロールしてフルームは相変わらず下を向いている

いつものことながら調子がいいのか?悪いのか?

やがてペリゾッティが仕事終了

今度は表彰台目指してザッカリンがペースアップ

スカイ的にはこのままでいい

リスクを負ってまでコンタドールを追走する必要もない

ザッカリンをはじめとするライバルに付いて行くだけで総合優勝は確実だ

後は明日のシャンパンに備えるだけである

しかしフルームは動いた

アシストのポエルスとともにアタックした

コンタドールとフルーム

新旧の絶対的王者

コンタドールのためにも全力で倒しに行く

これこそがコンタドールへのリスペクト

逃げるコンタドール

すでにダンシングすらままならない

フルームとの差はどんどん縮まり始める

30秒

ニバリは遅れる

残り2キロ

コンタドール最後のダンシング

我々は見届けなければならない

この最後のダンシングを

そして目に焼き付けるんだ

王者コンタドールの勇姿を

残り1キロ

27秒

アングリルの最後は下り基調となる

残り500メートル

21秒・・・・

 

 

胸を小さく2回叩く

バキューン!

最後のアングリルで最後のバキューン

この時コンタドールに笑顔はなかった

全てをやりきった顔であった

様々な思いが走馬灯のように駆け巡ったのだろう

病気を乗り越えて

ようやく自分が王者への階段を登ろうとした時のランスの嫌がらせ、天才クライマーのアンディとの死闘

ツライ出場停止期間

そして復活

落車が多く結果が出せなくなった晩年

今年のツールでは観客のおじいさんに「ただ走ってるだけ」とまで言われていた

時折輝きは見せるが続かない

やはりコンタドールは終わってしまったのか?

そしてブエルタ

第2ステージのバッドディ

やっぱりな

しかしそこからの連日のアタック

そしてアングリルでのステージ優勝だ

現役最後の山岳ステージでの最後のバキューン

ダメだ

この男かっこよすぎる

ありがとうコンタドール

そしてお疲れ様

この日俺は間違いなく歴史が作られるのを見た

永遠に語り継がれる伝説を

 

フルームは17秒差の2位で総合優勝ほぼ確定

3位にはザッカリン

ケルデルマンが大きく遅れた目に総合3位はザッカリンに

そしてニバリはなんとか総合2位をキープした

 


ブエルタ・ア・エスパーニャ2017 第20ステージ <永久保存版>コンタドール、激坂アングリルを制し執念のステージ優勝!