鯖棒亭日乗(下)

日常の記録写真と駄文  sababoutei@gmail.com

2019ツール・ド・フランス第19ステージ

2019年ツール第19ステージ

最終決戦アルプス3連戦の2日目

初日は無難にこなした総合争いも今日はさすがに何か仕掛けなければならない

誰も逃がさない

ボーナスポイントもステージも俺たちが取るんだ!

そんなステージなる予定だったが・・・

 

サン・ジャン・ド・モーリエンヌ〜ティニュ
距離126・5キロの予定だったレース

獲得標高も本来なら4000メートル越えなはず

まぁとにかくレースはスタートした

 

通常よりショートコースでもあり勝負となるステージだけにレース開始からわちゃわちゃな展開に

スタート直後こそお見合いして誰も行きたがらなかったが

一人がアタックすると一斉に逃げたい選手が動き出す

そして逃がしたくないチームがチェックに入る

こうなるとレースは逃げが決まらないままハイペースな展開で進む

これを望むチームもあれば望まないチームも

しかしこの展開は簡単には変えられない

とにかく追うしかないのだ

 

それでも逃げらしき集団が出来上がる

ニバリ、Dマーティン、ビルバオ、ヘスス・エラダの4人

誰もがアルプスで十分にステージ優勝を狙える実力もつ選手たち

しかし逃げというほどのタイム差はない

後方からも大集団がわちゃわちゃと追ってくる

結果的にこのままのハイペースでレースは進んでいく

どうせ超級に入ればほとんどの選手は淘汰される

 

カメラもコロコロと切り替わり実況解説陣も誰がどのポジションなのかはっきりと把握できていない

ゴールに向かいずっと登り基調なステージでのハイペースな展開についていけない選手が次から次へと脱落していく

気がつくとメイン集団もかなり絞られている

 

カメラがFDJの選手を映す

「ん?ピノか?」

ピノがメディカルカーの所へ

「もしかして落車か?」

痛みに顔を歪めるピノ

一体何があった?

情報が錯綜している

最初は蜂に刺されたの情報が入ってきた

自転車で走ってると蜂にはよく刺される

過去にはニバリも刺されていた

俺も数回刺されたことがある

結構痛い

しかしあの痛みに強いロード選手があれだけ苦悶の表情を見せるほど痛くはない

蜂でどうこうなる場合はアナフィラキシーショック

こうなったら即リタイアで病院へ運ばれるはず

しかしピノはまだ走り続けている

ドクターがバイクパンツを捲り上げてハサミで何かを切っている

見たとところ落車の痕跡はない

どうやらテーピングらしきものを切って撒き直している

「そうなると筋肉系か?」

続報が入るも相変わらず錯綜

古傷が痛み出したとか前日のステージでカメラバイクとぶつかったとか

世界中が混乱しまくっている

治療を終えたピノが再び走り出すも

ペースは上がらない

明らかに痛みで踏めていない

どんどん広がるタイム差

そしてなぜかアシストが降りてこない

この緊急事態に何が起きているのか?

全く走れないピノ

カメラがピノを映す

走りながらピノが泣いている・・・

痛みもあるだろうが悔しくて悔しくてたまらないのだろう

「何故今なんだ?」

思えばツールで鮮烈デビューを果たしフランス中の期待を背負ったピノ

あまりのプレッシャーに潰れかけ

チームは彼をツールから遠ざけた

しばらくの間イタリア、スペインへの武者修行

イル・ロンバルディアも制してさらなる実力と確かな自信を身につけたピノ

今年のツールはTTが少なくクライマー向け

まさにピノ向けのツールに満を持して帰ってきた

チームとしても早くからツールメンバーを決定

アルプスに拠点を構えてツールメンバーで高地トレーニングも積んできた

体調管理も万全でツール前から絶好調だったピノ

ツールが始まっても調子の良さは一番目立っていた

途中横風でタイムを失うも山岳での走りで失ったタイム差を取り戻し

表彰台も見えてきた

そしてこのアルプス次第でマイヨジョーヌも夢ではない位置だ

「それが何故今なんだ・・・」

「チームメイトと毎日毎日走り込んだこのアルプスなんだ・・・」

涙が止まらないピノ

ライバルたちとのタイム差はもはや挽回不可能なところまで広がっている

FDJのアシストが一人降りてきた

並走しながらピノを抱きしめる

どんな言葉が交わされたのか?

ピノは止まり自転車を降りた

ピノのツールが終わった

 

 

のちに確かな情報が入ってきた

ピノは2日前のステージでの落車回避の行動でハンドルに膝を打ち付けたようだ

その痛みが前日のステージで出て歩くのも困難なほどに悪化していたと

それがこのハイペースな展開で耐えられなくなってしまったのだ

確かに前日のコメントでは調子の悪さを匂わす発言もあった

そして緊急事態でも降りてこないアシストたち

おそらくこの日ピノがリタイアするとこは想定されていたのだろう

すでにチーム内ではプランBが発動されていたのだ

 

 

突然ピノを失ったフランス人

一体どれほどショックを受けていることだろうか?

日本人の俺でさえ買い込んだピノを食べるタイミングを失くしてしまった

「あと3箱、一体どうすればいいんだ・・・」

箱に描かれたミニオンの絵を見るだけで悲しくなってくる

 

 

喪失感でレースが頭に入ってこない

一体今どこを走っているのか?

FDJプランBのエース、ゴデュが遅れている

これまたフランス期待の山岳ジャージを着るバルデも遅れた

どうやら先頭のニバリたちに追走が追いついている

ウラン、バルベルデ、バルギル、モレマ、サイモン・イェーツなどの大集団ができている

メイン集団はイネオスが牽引開始

いよいよ決戦に向けてハイペースでコントロールしてきた

残り60キロ

逃げとメイン集団との差は2分

超級山岳へ突入した

 

そしてアラフィリップの貴重な山岳アシストのマスが遅れる

苦しい表情でなんとか耐えているアラフィリップ

さらに前日復活を遂げたキンタナも遅れた

やはり彼は総合を狙うのは厳しいのだろうか?

コンデイションが安定しない限り総合は勝てない

 

先頭がニバリ、デプルス、バルギル、ウラン、サイモン・イェーツ

メイン集団からGが動いた

しかしさすがにライバル勢もGトーマスを逃がさない

山頂まで6・5キロの位置でGを捉える

カウンターでクライスヴァイクが仕掛ける

いよいよ始まったアルプス決戦

お互いが探り合いを入れる

誰が調子が良く、誰が調子が悪いのか?

ポーカーフェイスの奥を見極めなければならない

アタック勃発で自然とペースが上がるメイン集団

この影響を受けたのがアラフィリップ

本来ここまで残れるほど登りは強くない

アシストのいない孤独な戦い

騙し騙しマイヨジョーヌ根性でここまで踏ん張ってきた

しかしこの日も彼は遅れた・・・

 

 

ピノ、バルデに続きアラフィリップまでも・・・

フランス中から悲鳴が聞こえた気がした

 

 

アラフィリップマークのベルナルがスルスルっと彼を交わして前へ上がる

どうやらかなり調子が良さそうだ

おそらくGトーマスよりベルナルは登れる

そしてそのままアタックだ

 

キレキレのベルナル

メイン集団のライバル勢を引き離し逃げ集団へと迫る

タイム差は広がる

ピノがいない今、山で一番早いのはベルナルである

逃げていたニバリ、ウラン、バルギル、バルベルデを吸収して後ろに従える

もはや大先輩たちに「回ってください」などとお願いはしない

誰よりもベルナルが一番強い

自分で行く

俺が行く

このまま大先輩をぶっちぎる

2回目のツール

若干22歳の彼が歴戦の猛者たちを引き離す

唯一サイモン・イェーツだけが食らいつくもベルナルの走りについていくのが精一杯

そして引き離される

ベルナルが超級の山頂へ向けて独走でトップ通過した

 

後にこの場面が非常に大きな意味を持つこととなる

 

Gトーマス、クライスヴァイクたちの集団はベルナルから1分03秒遅れで山頂を通過

ここから降って最後の1級山岳で再び勝負だ

後方から苦しみながらアラフィリップが2分10秒遅れで登頂

さぁ前日に引き続き怒涛のダウンヒル開始である

「大丈夫だ、必ず追いついてみせる」

アラフィリップは下りを攻めまっくった

そして見えてきた

捉えた

Gトーマスのお尻

これでまた降り出しかと思われたのだが・・・

 

 

事前情報ではちらちらと入ってきていた

ゲリラ豪雨で道が川のようだとか

正直「まぁなんとかなるでしょ」と思っていた

映像が来た

パリでは40度超えだというのに道が真っ白だ

明らかに雪が積もっている

どうやらゲリラ雪かゲリラ氷

「さすがにこれは無理だな・・・」

混乱する現場が想像される

一旦レースを止めて安全な場所まで大移動というレースは過去に在った

ジロなど春先のレースでは雪でステージごとキャンセルやコース短縮もよくある

しかしレース中、突然の緊急事態は俺が知る限りは初めてだ

 

怒涛のダウンヒルでメイン集団に追いついたアラフィリップが状況を知り

大きなリアクションで悔しがる

「何故なんだ!これからだろうが!!」

先頭のベルナルとサイモン・イエェーツにも状況が知らされる

突然の出来事に誰もが状況把握できない

ニバリが冷静にレースは終わりだとウランに告げる

アドレナリンが出まくってるウランは怒りが治らない

そんな二人を後ろから冷静なGがニコニコ見守る

 

 

アルプス2日目

第19ステージは天候不良のため突然の終了となった

 

ネットでは情報がポツポツと

どうやら土砂崩れで完全に道がふさがっている

積もった雪だが氷も直ぐに溶けて水となり川となる

重機が必死に書き出すも全く効果はない

この日の宿泊場所はゴール地点の山頂だ

しかしそこまで移動する交通手段もない

主催者側がコンボイを用意して選手たちを運んだそうだ

 

中継終了後も辻さんがインスタのライブ中継をしてくれていた

本当にありがたい

できる限りの情報を発信してくれた

しかしまだ現場は大混乱みたいだった

 

 

このとき確定したのは超級山岳通過タイムがそのまま総合タイムに反映される

ステージ優勝はなし

マイヨジョーヌはベルナル

「今日の宿までたどり着けるかなぁ」

このぐらいだった

 

総合成績

1位 エガン・ベルナル(チームイネオス) 78:00:42
2位 ジュリアン・アラフィリップ(ドゥクーニンク・クイックステップ) 0:00:48
3位 ゲラント・トーマス(チームイネオス) 0:01:16
4位 ステフェン・クライスヴァイク(ユンボ・ヴィズマ) 0:01:28
5位 エマヌエル・ブッフマン(ボーラ・ハンスグローエ) 0:01:55
6位 ミケル・ランダ(モビスター) 0:04:35
7位 リゴベルト・ウラン(EFエデュケーションファースト) 0:05:14
8位 ナイロ・キンタナ(モビスター) 0:05:17
9位 アレハンドロ・バルベルデ(モビスター) 0:06:25
10位 リッチー・ポート(トレック・セガフレード) 0:06:28

 

 

まさかこんな風にツールが終わるとは

あれほど面白かった今年のツール

ピノがいなくなり

そしてステージ途中でレース終了

今日の20ステージもコース短縮で130キロから59キロに

スタートから直接ゴール地点の超級山岳を登るだけのヒルクライムレース

これではアラフィリップの挽回も厳しい

あとは表彰台争いに絞られる

おそらくベルナルの総合優勝は確定

歴史に残るようなすごい偉業だが

最後がこれだと心から喜べない部分もあるかもしれないな

あのままレースが続いていたらまた違ったかもしれない

そして20ステージもちゃんと開催されればここで数分差もひっくり返る可能性は十分にあったはずだ

 

 

自然の中で開催されるツールだけに天候も含めてのツールである

しかしあまりにも残念でならない

せめて20ステージ

通常通り開催できないものなのか?

 

 

 

 

今日第20ステージ予想

超級山岳ではあるが勾配のゆるく距離が長いだけのダラダラ峠

正直山岳一つでは差はあまりつかない

山に入るまでにどれだけハイペースで疲労させられるかがポイント

各チーム最初から全開

今までにないレースになる

これが吉と出るか?凶と出るか?

「あれ?案外面白いじゃん」となることを心から願う

 

第20ステージ予想はベルナルで

さすがにステージ勝利を味あわせてあげたい

 

 

 

コース短縮で放送時間も変更なので注意が必要です

こまめに水分補給とJスポーツサイトをチェックだな