鯖棒亭日乗(下)

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2019年 奈良と京都の旅 09

2019年 奈良と京都の旅09

三日目最終日

場所は大原である

三千院を後にした俺は隣の勝林院へ向かう

その前に置いてある法然上人が腰掛けた石を眺めて大原問答の妄想を開始したのであった

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三千院の影に隠れがちだがここもすごいお寺さん

大原問答、声明の根本道場で有名なお寺である

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そんな由緒あるお寺なのに受付は無人

「ここに拝観料を入れといてください」という無人販売所システム

ただしお釣りや御朱印が欲しい人はブザーを押すことになっている

俺はブザーを押した

しばらくすると近くの家からお寺の人が小走りで到着

俺は拝観料と御朱印代を支払い本堂へ参拝した

「それにしても・・ここがあの大原問答の舞台とは・・」

「ここに380人か」

改めて思う「小さいな」と

しかし歴史観はちゃんと伝わってくるそんな佇まいである

ご本尊は阿弥陀如来

このお寺も大原らしく極楽浄土となっている

実はお寺へ入る前に渡った小さな橋

あれが三途の川を表しているのだ

そして三途の川を超えた先は極楽浄土なのである

ということは「俺は既に死んでいる・・・」

そんなことは置いといて

本堂の中には巨大な阿弥陀様がお座りになっている

阿弥陀様にしては珍しいタイプのお顔

目が細くつり目タイプ

朝鮮の影響かな?

年代はパンフレットにも出ていない

調べてみると途中で消失して頭だけは当時のままだそうだ

気になる仏師は定朝の父親の康尚と言われているが

いわゆる「伝」が頭に付くタイプでおそらく事実確認は取れていないのだろう

しかしこの阿弥陀様何回も燃えている

延徳2年、享保21年に火災

天文13年に水害に遭われている

萬平さんに匹敵する波乱万丈な人生だな

それでも頭だけは創建当時のまま残った

「すごいな」

アンパンマンとは逆パターンだ

「私の体などくれてやるわ!」

そうやって燃え盛る炎の中でじっと座って耐えてらしたんだな

そしてこの阿弥陀様は大原問答の時にも大活躍

大原問答の際に光を放ち「法然が今話したことは正しいのじゃ」とサポートしたそうだ

そのことから別名「証拠の阿弥陀」と呼ばれているという

 

 

大原問答か・・・

俺の中でのイメージとしては

「あの比叡山から下りてきた法然ってやついるだろ?」

「なんか河原とかで庶民集めて念仏唱えてるやつか?」

「ああそうだ」

「あいつ最近ちょっと調子乗りすぎじゃね?」

「どんな教えよりも念仏が一番なんだってさ」

「浄土LOVEって感じらしいぜ」

「それはちょっと聞き捨てならんな」

「ここいらで軽くシメとくか?」

そうやって集めらた当時の日本仏教を代表する各宗派の実力者たち

まぁ法然VS既存の日本仏教

いつの時代だって出る杭は打たれる

新しいものは否定されるのだ

 

そして場所は大原の勝林院に決定

お寺の前で腰掛ける法然

既にお堂の中には各宗派の実力者が勢ぞろい

そこに真言宗代表として東大寺から来た重源が本堂に姿を表す

途端に騒つく堂内

「ほう、真言宗さんは東大寺の重源を出してきた」

「これはまたビッグネームのお出ましだ」

「我々にとっても力強いな」

その頃勝林院前の例の石に腰掛けて時を待つ法然上人

お堂の中を確認してきた弟子が忠告する

法然上人、これは罠です」

「みんなあなたを潰そうとしています」

「今すぐお帰りください」

それでも念仏の素晴らしさを信じきっている法然はたった一人で戦いの場へと赴いたのだった

孤独だな

ランボーだな

そして始まる大原問答

次から次へと論破する法然

第1門、自らが修行した天台宗を蹴散らした

天台座主が敗北した

2番手に「地蔵菩薩の化身」との異名を取る天台宗の永弁が戦いを挑む

「自力ではなく結局は他力だよ」と地蔵菩薩の化身も敗北した

次から次へと戦いを挑む天台宗の刺客たち

さすがに自らが生み出した化け物だけに自らの手で息の根を止めなければならない

しかしみんな法然に論破されていく

そこで今度は同じく密教真言宗の登場だ

最初は高野山から明遍が登場

彼は真言宗禅宗を学んでいる

しかし彼もまた論破される

しかも空海の教えまでも浄土の前で念仏の前では劣るというのだ

「結局はさ、人間の煩悩ってすごいじゃん」

「いつもエロいこと考えてるしカネカネカネでしょ?」

「人間が自力で悟るなんて絶対に無理」

「即身成仏なんて夢物語」

「やっぱり他力でしょ」

阿弥陀様のお力にすがろうよ」

明遍は何も言えなくなった・・・

 

続く人たちもことごとく論破されていく

問答開始からどれだけ時間が過ぎただろうか?

ここでついに重源の登場である

重源といえば源平に焼き尽くされた東大寺の復興を成し遂げた英雄である

その当時の国民的スター

石原裕次郎だな

白いガウンでブランデーグラスをグルングルン回しながら登場とはいかないが

ついに真打の登場だ

「重源さんならきっと・・・」

みんなの期待を一心に背負う重源

しかしこの時既に重源は法然のことを認めていたのである

法然の優しい言葉に重源も感服

彼はこのあとすぐに法然の弟子となった

 

 

それでも食いさがる人たち

結果は惨敗

完璧に法然に論破されて大原問答は幕を閉じた

 

たった一人の孤独な戦いを

法然は勝利した

 

そしてあの空前の浄土ブームも更に加速

もうこうなったら山本リンダ

どうにも止まらない

大原問答を観戦した者たちは法然に感服

大原では三日三晩念仏が響き渡ったそうだ

南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏

 

 

こんな妄想をしながら旅をすると面白い

あんななんでもない石もとても感慨深く見られるのだ

 

 

でも法然って空海真言宗とは対局とも言える考え方だけど

空海の生まれた讃岐の善通寺まで生前に参拝して自ら自分のお墓を建ててるんだよな

そして高野山にも供養塔はあるし

やはり空海のことはリスペクトしてたんだろうし

死んだあとは空海さんのそばで過ごしたかったと言う気持ちの現れなんだろうか?

でもそうなると自分とこの浄土宗の教えを否定しかねないんだよな

「よくわからん」

まだまだ勉強が足らんな

 

 

俺は御朱印を受け取り勝林院をあとにした

次はそのお隣の額縁庭園のお寺である

「宝泉院」

今ではお寺の名前よりも額縁庭園といった方がわかりやすいだろうな

拝観料は800円で抹茶とお茶菓子がつくとてもお得なプランだ

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そしてここにも法然の足跡が

この石に衣をかけられたそうだ

天台の縄張りなのに法然ばかりだな

自分とこから飛び出した弟子の名前で商売するような感じになってる

この時にはすっかり妄想から冷めている俺である

正直ただの石にしか見えなかった

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五葉の松も室内からと玄関から見るのとでは随分と印象が違うんだよな

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小さな庭だが凝縮感がすごいな

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これが額縁庭園

三千院の開門の時に一緒だった人が佇んでいた

みんな回るコースは同じだからな

女性の場合は宝泉院がメインだろうし

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なんか支えがすごい

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樹齢700年

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さぁ至福の時間だ

子供の頃に茶道をかじった俺である

無意識に茶碗をくるくる回してしまう

このお菓子うまいんだよな

俺は素晴らしい庭を眺めながらお茶を楽しんだ

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以前来た時は気づかなかったが幹があんなに白くなってるんだな

盆栽の世界では「舎利」と言うやつだ

枯れてるとはいえ綺麗だな

 

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ここは何時間でもいられるお寺

それだけに人が少ない冬場はおすすめである

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そしてこの宝泉院は山崎豊子さんの「不毛地帯」にも登場するのだ


俺の頭も不毛地帯だがな

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ふと天井を見上げると籠が

昔のタクシーだな

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お不動さんにもご挨拶

 

俺は宝泉院をあとにして大原へのバス停と向かった

途中にある自販機で珍しいものを発見

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ひやしあめなのに何故HOT?

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記念に買ってみた

裏を見たら「あめゆ」と書いてある

どうやら温めた場合は「あめゆ」と呼ぶらしい

俺は納得した

 

帰り道でしば漬けを購入

「志ば久」さんのだ

お土産ノルマを果たした俺は再びバス停へと急いだ

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バス停到着

予定通り

まずはトイレを済まして国際会館までの切符を購入

バスなのに切符があるところが観光地ならではだな

コインロッカーから荷物を取り出してバスに乗った

11時1分だ

やがてバスは国際会館に到着

地下鉄に乗り換えて丸太町で下車

そこから寺町二条まで歩いた

そして到着「末廣」

さぁ昼飯だ

ちょうどテーブルが一つ空いていた

「これも日頃の行いがいいからだな」

俺は椅子に座り注文した

「蒸し寿司の上」

周りを見るとみんな蒸し寿司である

やはり京都の冬は蒸し寿司だな

蒸し寿司とはちらし寿司を蒸したもの

想像するよりはるかにうまい

しかし話を聞いただけで抵抗感がある人も多いだろう

「寿司を蒸すなよ・・・」的な

そんな人は人生のほとんどを無駄にすることになる

そうならないためにも是非食べるべきである

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蒸し寿司の上

「久しぶりだな」

前回はいづ重さんで食べた

酢飯は蒸すことで酸味は飛んでしまう

とても寒い京都の冬を熱々の蒸し寿司が心も体もポカポカにしてくれる

とても優しい蒸し寿司

暖かいな

今回の旅を締めくくる最高の一品だ

俺は一口一口噛みしめるように蒸し寿司を堪能した

末廣さんはお持ち帰りが主体である

店内で食べてた人もみんな帰りにいなり寿司を買っていく

「稲荷もいいな」

「でも俺は鯖寿司だな」

俺は鯖寿司をお持ち帰りで注文したのだった

 

「ごちそうさま」

 

俺は末廣を後にしてひたすら寺町を南下した

いつものように本能寺でトイレを拝借

ついでに本堂へご挨拶

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そしていつものように信長の供養塔へ参拝

ここの供養塔の下には信長が使用していた刀が収められてるそうだ

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俺は信長さんに話しかけた

「知ってますか?今の岐阜城は鉄筋コンクリートなんですよ」

「すごく頑丈で外から火をつけられても燃えません」

「そして金華山の山頂まではロープウェイと言う巨大なカゴで運んでもらえるのです」

「すごいでしょ」

「あなたが生きていた時代とは随分と変わりました」

「そして山頂のレストランでは信長ラーメンがあります」

「天下人であった自分を呼び捨てにされる気持ちはいかがなものでしょうか?」

「せめて信長様ラーメンに改名するべきですよね?」

「今の時代に信長様が生きてらしたらきっと切り捨ててしまうことでしょう」

しばらく信長との会話を楽しんだ俺はそっと手を合わせたのだった

 

本能寺でも御朱印をゲットした俺は再び寺町を南下する

古本屋で仏教本を物色

そして錦市場

やはり噂通り外人が多い

漬物を購入して四条から地下鉄で京都駅へ

そのまま在来線で帰宅した

 

 

今回は随分と長いブログになってしまったな

その割にはあまり内容が無いような気がするが

イノシシ生まれの俺としては摩利支天に参拝したかったが

まぁ日帰りでも行けるしな

東寺と絡めて暇を見て行ってこよう

概ね今回の旅は予定通り

そして素晴らしい数々の国宝を貸切状態

毎回のことながら俺はいい旅をするな

なんかカレーを食べて感動してたのが随分前のような気がしてきた

やはり奈良は面白いな

そして京都の寿司は庶民でも出せる金額で絶品なところがいい

京都を代表する名店でも昼時に訪れて並ばずともさっと食べられるすばらしさ

思い返してるとまた旅に出たくなるが俺にはもう時間も金も無い

また来年だな

 

そのために頑張って稼がなければ

まだまだ見ていない仏像はたくさんあるのだから