鯖棒亭日乗(下)

日常の記録写真と駄文  sababoutei@gmail.com

あゝバルギル、されどウラン

2017年ツール・ド・フランス第9ステージ

翌日には待望の休息日を控えたクイーンステージ

クイーンステージと言っても髭面のおっさんが全身タイツで歌うわけではない

今年のツールで1番きつく、1番の勝負どころになるステージ

それが今回の第9ステージなのだ

フランス、ジュラ山脈

なにやら恐竜の足跡が発見されたとか

先日知ったのだが福井県の恐竜博物館は世界3大恐竜博物館の一つであるらしい

この日も逃げたいメンバーは多い

しかし超難関なサバイバルステージ

逃げ切れる可能性はスカイ次第である

ジュラ山脈から7つもの峠が登場

総獲得標高4600メートル

超級山岳は3つも登場

超級山岳ビシュ峠(全長10.5km/平均9%)

超級山岳グランコロンビエール(全長8.5km/平均9.9%)

超級山岳モン=デュ=シャ(全長8.7km/平均10.3%)

特に2番目の超級山岳はフランス最強の峠と言われてるそうで

峠マニアなんかテンダムよりも先によだれを垂らしてることであろう

スタート直後から2級山岳が始まる

いきなりの登りほど嫌なものはない

それだけに入念なウォーミングアップも必要だろう

体が温まってなければ登れない

前日からの体調不良が続くデマールはアシスト二人に守られながら最後尾でゆっくりと登る

一方集団は山岳賞狙いを含む逃げ合戦が勃発

まずはティボピノーが2級3級山岳ポイントをゲット

そしてこの日も逃げるバルギルにデヘントも山岳賞狙いだと思われる

この辺り酒をちびちび飲みながら観戦してるとカメラをあっちこっちスイッチングで誰がどこの位置なのか分からなくなる

ちなみにこの日のつまみはデパ地下、美濃吉の鯖の煮魚メインの惣菜セットだ

鯖がうまいなぁとしみじみ感傷に浸っていると

途端に逃げメンバーの構成などが変わっていく

やがてこの日も40人ほどの巨大な逃げ集団が誕生した

スカイは4分差まで差を容認

十分に逃げを捕まえられるタイム差である

40人の巨大逃げ集団とはいえこの日の山岳コースではサバイバルレースになる

さすがに相当登れる選手でないと生き残れない

案の定、最初の超級山岳に入るとバラバラと脱落する選手が

天候はあまり良くなくて路面も濡れている

下りが怖いなぁと思ってると

総合2位のゲラント・トーマスが落車

鎖骨骨折でリタイアとなった

そのあとで今度は

ヘスス・エラダ(スペイン、モビスター)

アレクセイ・ルツェンコ(カザフスタン、アスタナ)

ロベルト・ヘーシンク(オランダ、ロットNLユンボ

マヌエーレ・モーリ(イタリア、UAEチームエミレーツ)の4人が落車

地面に倒れて「アァアアアあゝ、アァアアアあああ」と叫びっぱなしのモーリ

相当痛いみたいだ

この落車でモーリと前日2位と復活の兆しを見せはじめていたヘーシンクがリタイア

先頭から脱落するのではなく、本当の意味でのサバイバルレースとなっていく

ビシュ峠を下り切ると今度は

アレクシ・ヴィエルモーズ(フランス、アージェードゥーゼール)

ヤルリンソン・パンタノ(コロンビア、トレック・セガフレード

ティエシー・ブノート(ベルギー、ロット・ソウダル)

ワレン・バルギル(フランス、サンウェブ)の4人が逃げグループを形成する

ヴィエルモーズやパンタノはステージ狙いと各エースのための前待ち作戦だろうか

バルギルは昨日に続き調子が良さそうだ

そして次の超級山岳グランコロンビエールが始まる

ここで先頭はバルギルとブノートの二人に絞られて山頂はバルギルが1位で通過した

この時、追走のスカイにコントロールされたメイン集団からは6分差のリード

まだまだ安全圏ではない

そして下りに入る

後続から追走選手たちが追いついて再び12名の逃げ集団を結成

増えたり減ったり、少しトイレなどで目を離すと入れ替わっていて分けがわからない

ここからはしばらく平坦が続くために先頭の少人数で逃げるよりは一人でも多いほうが助かる

そしてこの平坦には今回も嫌がらせなのかサガンのためなのか中間スプリントポイントが設定されている

既にほとんどのスプリンターはテレビにすら映らないぐらい遅れている

その中で唯一残っているのがサンウェブのマイケル・マシューズだ

サガンがいなければこの男しかいない

かつてTOJの富士山ステージで日本のトップクライマーの誰もがこの男に敵わなかった

かなり登れるスプリンター、マイケル・マシューズだ

この中間スプリントを取るためにキツイ山岳を超えてきた

ロットソウダルなど他チームと話し合うもまだまだ半信半疑で人を信じられないマシューズ

スプリントポイントでも最大限の警戒をしながら無事に20ポイントゲット

これで一安心

あとはバルギルのために最後の一仕事だ

先頭は最後の超級山岳モン=デュ=シャへと突入

逃げグループからバークランツとギャロパンが抜け出す

かつて自転車選手であり表彰台のお姉さんだった現嫁をナンパしたギャロパン

愛のために彼は彼女と同じロットソウダルへと移籍した

そこに追いついたバルギルが先頭に立つ

彼の力なら十分ステージも狙えるが、とりあえずは山岳ポイントだろう

頂上まで残り6キロで単独になるバルギル

最後の超級山岳も1位で通過してトータル53ポイントゲット

山岳賞と敢闘賞を確定させた

一方メイン集団は2分半差で最後の超級山岳へと突入

スカイがハイペースで引き続けて集団は人数を減らしていく

突然フルームが手を挙げる

メカトラだ!

それを見たアルがこれまた突然アタックを仕掛ける

それに反応したのはキンタナ

焦るフルーム

しかしチームカーはこない、アルたちはどんどん先へ行く

去年の再現か?

レース後「あの時はマジでムカついた」と穏やかなフルームもご立腹だった

アルはアルで「フルームのトラブルのことは知らなかったんだよ。あとでチームから無線を聞かされて知ったんだ」

と語ってはいるが明らかにアルは知っていた

フルームのトラブルを確認してアタックをした

速達によりヴィノクロフから「構わず行け」とお手紙が届いたのかもしれないが

結局、リッチーなどがペースを落とすように言ってフルームたちは再びメイン集団に追いつき無線で怒られたアル達もまた集団へと戻ってきた

今度はアスタナのWエースの一人フグルサングが集団から飛び出す

ちなみに今カザフスタンのアスタナでは万博が開催中である

長い長いサバイバルレースでサイモン・イェーツ、マインティーズそしてコンタドールが力尽き集団から遅れ始める

やはりコンタドールの衰えは酷いみたいだ

落車もあったが結局何一つ攻撃を仕掛けることなく脱落した

リッチーやアルなどが攻撃を仕掛けるが決定的な攻撃にはならない

そして今度はフルームがペースアップ

ここでキンタナも何もすることなく脱落した

メイン集団はフルーム、リッチーポート、アル、フグルサングウラン、バルデ、Dマーティンに絞られた

最後の超級山岳の山頂を先頭のバルギルから30秒遅れで通過

いよいよ最後の勝負どころ

ダウンヒル

前哨戦のドーフィネでも下っているがかなり危険な下りだ

何もなければいいと思っていると衝撃的な映像が・・・

リッチーポートが落車

コーナーのイン側に落ちたリッチーはそのままのスピードで反対側の壁までふっとばされDマーティンを巻き込み壁に激しく激突

死んじゃうんじゃないかと思うような派手な落車

Dマーティンも一回転して転倒するも再び走り出す

ウランは間一髪で落車は免れたがこの時にDマーティンと接触してリアの変速機を壊した

この後はウランはずっとアウタートップかインナートップで走ることを強いられてしまう

リッチーは動けない

ドクターが駆けつけて応急処置をした後で救急車で運ばれた

検査の結果は鎖骨骨折と骨盤骨折

重症ではあるが当初心配されたほどの怪我ではなかったみたいだ

とりあえず一安心

しかしまた一人主役が脱落した

バルギルは軽快にダウンヒルをこなす

一方フルーム達は安全マージンをとってのダウンヒル

フグルサングは急に下れなくなった

やはり目の前でリッチーの落車を目撃したからだろうか?

すると追走集団の中からバルデが抜け出す

ぐんぐんとフルーム達を引き離して先頭のバルギルを追いかける

下りが終わり平坦区間に入るとバルデはバルギルに追いついた

同世代のフランス人

子供の頃からもライバルとして戦ってきたであろう二人が先頭になる

残り12キロ、バルデとの差は20秒

ここでついにバルギルが力尽きる

前日の疲れ、この日も早い段階から逃げている

単独先頭に立つバルデ

しかし後続も仲良くローテーションしながら追いかけてくる

ウランもギアが壊れているのにもかかわらずローテーションに入る

登り基調ではかわいそうなほどグイグイと踏み込んでいるウラン

ただ追い風が幸いしたのかアウタートップでもなんとかレースをこなせている

道は平坦だが結構テクニカルなコース

逃げが有利なコースだ

しかし残り2キロでついに追走はバルデを捉える

後はスプリント争いだ

普段はスプリントなどしない総合系の選手達

フルームはさいたまクリテでのスプリント勝負でサガンを下しているが、さすがにさいたまのように周りはクルクルと軽いギアで手加減してスプリントはしてくれない

ここはツールのクイーンステージ

真剣勝負である

スプリント力はウランがややリードか?

しかしここまで山岳を超えてきただけに全く様子がつかないスプリン勝負

そしてウランの自転車はリアの変速が壊れている

フグルサングが先行する

ウランがうまく番手を取りスリップストリームを使いながら加速して先頭へ

そこに何とバルギルが!

ハンドルを投げ合うウランとバルギル

手を上げて勝利を確信するバルギル

勝ったのはバルギル

誰もがそう思ったであろう

バルギルが泣いている

よほど嬉しかったのだろう

連日の逃げ

そしてかなり厳しい今日のステージだ

そして写真判定の写真が出た

「ん?」

な、何とウランの車輪がバルギルよりわずかだが先にゴールラインに到達している

その差リム分

勝ったのはウラン

ゴール前のVTRが流れる

やはり勝利を確信するバルギルが写っている

寺山修司ではないがまさに「あゝ無情」

しかし勝者はウラン

ウランが見事にこのクイーンステージを制した

今後バルギルはこの時のゴールシーンを突然思い出して

「あゝあぁああああああ」って叫びたくなるかもしれないな

 

なかなか帰ってこないスプリンター達であったが有力選手は何とかタイムアウトを免れたみたいである

しかし心配されたデマールはアシスト3人とともに間に合わずにタイムアウト

この日FDJはエースデマールを含む4人もの選手を失った

そして他のタイムアウトには

お兄ちゃんサガン、レンショー、トレンティン

確かトレンティンは昨日逃げてた気がするが疲れが残ってたのだろうか?キッテルにとっては痛いリタイアだ

そしてエースを失いモチベーションを失ったお兄ちゃんサガンとレンショー

それぞれがサガンカヴェンディッシュのアシストである

この二人も第1週目でツールから去ることとなった

 

総合は大きく動いた

1位 クリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ) 38:26:28
2位 ファビオ・アル(イタリア、アスタナ) 0:18
3位 ロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール) 0:51
4位 リゴベルト・ウラン(コロンビア、キャノンデール・ドラパック) 0:55
5位 ヤコブ・フルサング(デンマーク、アスタナ) 1:37
6位 ダニエル・マーティンアイルランドクイックステップフロアーズ) 1:44
7位 サイモン・イェーツ(イギリス、オリカ・スコット) 2:02
8位 ナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター) 2:13
9位 ミケル・ランダ(スペイン、チームスカイ) 3:06
10位 ジョージ・ベネット(ニュージーランド、ロットNLユンボ) 3:53

 

2位のアルが18秒

3位のバルデが51秒

4位ウランが55秒

総合争いはこの辺りだろうか?

3位争いが面白そうだ

最初はこの時点でフルームの優勝はほぼ決まるかと思われたが

アルが粘っている

そして意外なウラン先輩が4位につけている

アルは波があるだけに3位のバルデとフルームとの争いになるのかな?

今日は休息日

選手も我々視聴者ものんびりと休める

そしてツールはまだ半分以上残っているのだ

 

第10ステージは平坦コース

おそらくスプリント勝負だろう

逃げとスプリントチームとの追いかけっこ

でも逃げも少ないだろうな

みんなピレネーに備えて休みたいだろうし

4級山岳でのペースアップが勝負どころだがミラノ〜サンレモような展開にはならない

結局はスプリント勝負で

優勝キッテル

2位にマシューズ

3位にクリストフ