鯖棒亭日乗(下)

日常の記録写真と駄文  sababoutei@gmail.com

2017年京都冬の旅02

2017年の1月4日のことである

午後4時半ぐらいだろうか

俺は四条のホテルを出て河原町二条まで歩き始めた

開店時間まではまだ1時間ある

のんびりと錦市場を回る

仕切りに鱧の天ぷらが最後ですよ〜の声がかかるが

あいにく周りは外人だらけ

果たして言葉が通じているのだろうか?

しかし先ほどのホテルのエレベーターも俺以外みんな外人だし

どこに行っても中国語が聞こえてくる

そして俺が今から食べに行こうとしている店は中華料理である

考えてみたら俺は今まで京都では中華料理は食べていない

たかばしの新福菜館本店で真っ黒な焼飯

その隣にある第一旭本店でラーメンを

四条駅の側の萬福で中華そば

京極スタンドで中華そば

餃子は珉珉

四条にあるすげえ高い香港料理屋でオイスター焼きそば

などを食べただけである

これらはラーメン屋と香港料理と大衆食堂であり決して中華料理ではない

そして京都中華は一般的な中華とは異なる料理なのだ

TVや雑誌などで話は知っていた

しかし京都に来るとどうしても和が食べたくなる

そのために今までなかなか食べには行けなかったのだ

昔一回だけ美齢に行った事あるが開店30分後だったために既に満員で断られてしまった

京都の店は小さな店が多いのでこういうことはよくある

少しぐらいなら外で待ちたい所だが観光客の身としてはどうしても遠慮してしまう

やはり地元の人を優先させてあげたい

我々観光客に頼らなくても十分経営は成り立つみたいだし

よそ者としては肩身が狭いのだ

とは言っても一回ぐらいは食べてみたくなる

京都の中華って奴を

京都の中華には鳳舞系と呼ばれる系列がある

鳳舞系は一番最初に京都で誕生した中華料理「ハマムラ」で料理長を務めていた

高華吉さんが独立して作り出した飛雲、第一楼、鳳舞の店の流れを汲む祇園の花街で誕生した京都の中華

それぞれ弟子が独立しては新しい店を出し

既存の店は高齢化などで閉店を繰り返す

消滅した店も常連客の情熱で再び復活を果たしたりしている

船越英一郎の京都の極みで紹介された女優であり老舗料亭の娘である田畑智子さん一家御用達の広東料理「平安」もこの鳳舞系にあたる

そして今回俺が向かっている鳳泉も鳳舞の前料理長が復活させた店なのだ

特徴としてはニンニクや香辛料は使わない

鶏ガラと昆布だしをベースとして

油も最低限に押さえたあっさり中華

これは花街の舞妓さん芸妓さんホステスさんなどがニオイを嫌うからである

京都の中華と言う本を読んでいると京都の料理はお客さんが作り上げている

油っこいだの味が濃いだの

店で食べては文句を言って帰って行く

しかしまた食べに来るのだ

これが他の地方だと何も言わずに次からは来ないだけである

それがああだこうだケチをつけながらも再び食べにやって来るのが京都なのだ

それに対して料理人も改良を重ねる

そうやって完成された料理を弟子達がひたすら守り続けているのだ

商売っ気が無いのでフランチャイズなどのチェーン展開もしない

なので店は一代限りであったり二代で終わったり

しかし弟子達が名前を変えて再び同じ味で店を出す

かつての常連客も「鳳」の字を見ると再び戻って来るのだ

そんな京都の中華なのである

その一方で学生の街でもある京都だけに

濃いめの味付けでがっつり系の中華も混在している

そして両方に共通するのは安いという事だ

あとは池波正太郎の通った北京料理の盛京亭の流れも別系統でできていて

こちらも根強い人気店となっているそうだ

鳳舞系は広東料理

とはいっても出汁の取り方など実際の中身は京料理の方が近いのかもしれない

決して中国には存在しない広東料理なのだ

 

俺は先ほどの酔いも冷めないままにフラフラと寺町通を北上する

途中で時間つぶしに本屋を回る

京都も奈良も仏教系の専門店があって面白い

目指すは河原町二条上ル

しかし勘違いしてひたすら寺町二条を北上してしまう

慌てて河原町へと移動して鳳泉を目指して南下した

店に着いた時は開店5分後だった

幸い並んでいる客はいない

俺はドアを開けて「一人ですがよろしいでしょうか?」と

店の中は4人掛けしか無い

だが快く一人客の俺を4人掛けテーブルへと案内してくれた

俺は常に一人飯である

各地で一人客であることを理由に断られて来た

京都は一人客に優しいのでありがたい

まぁ一人だが沢山食べてやる

俺はまずクワイが入っているというシュウマイを注文

しかし既にシュウマイは売り切れであった

最初の注文で仕込んだ分が全て捌けてしまったのかもしれない

持ち帰り客の分も大量に用意されている上に電話がひっきりなしに鳴り響く

やはりかなりの繁盛店みたいだ

シュウマイが無い事に落胆したが直ぐに気を取り直し注文

春巻き、エビカシワソバとビール中瓶

正直全部食べたい

一品一品が安いのでそれほど予算は気にしなくていい

ただ中華は量が多い・・・

朝からなるべく食べないように

そしてこの日は既に3万歩を突破していた俺である

食べてやる

井之頭五郎さんみたいに食べてやるのだ

まずはビールをちびちび飲みながら料理を待つ

すでに日本酒が入ってるのであんまり飲み過ぎるとせっかくの料理の味が分からなくなる。この店では一本で押さえようと俺は思った

飲み足りなければはしごすれば良い

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そして春巻きの登場である

ほとんどの人が注文するみたいだ

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鳳舞系の春巻きは卵焼きみたいである

玉子多めの薄いへなへなした皮にこれでもかってぐらいの千切りのタケノコが入っている

皮が柔らかい分、具材のタケノコの食感が生きるのである

そしてかなり細かく切られている

これはやはり舞妓さんたちでも食べやすいようにとの配慮なのかもしれないし酒のツマミ用なのかもしれない

調味料は醤油と酢と辛子が用意されていてラー油は無い

俺は醤油に少し酢を垂らして味を見る

そして辛子を少々

と思ったら何やらやたらシャバシャバな辛子なのである

そしてぜんぜん辛く無い

あとから知ったのだがどうやら鳳舞系では辛子を酢で溶いてしゃばしゃばにしてしまうのだそうだ

理由は不明

常連客でも分からないらしい

俺はさっそく春巻きを食べてみた

タケノコのシャキシャキ感がとても楽しい

想像していた味とは違うけどなんか美味いなぁ

これが京都の春巻きなんだなと

船越英一郎の番組で見た時から食べたくて仕方が無かったのだ

この感じの春巻きが

そしてエビカシワソバの登場だ

これは他店ではカラシソバと呼ばれていたりする不思議な料理

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これもまた人気メニューである

箸で麺を摘むとごそっと塊になって麺が持ちあがってしまう

同時に辛子の良い香りがプーンと漂ってくる

これがカラシソバの由来

かなり柔らかめに茹でられたぼとぼとの麺を丁寧にほぐしながらかき混ぜる

麺にはあらかじめ味が付けてある

醤油と酢で溶いたカラシが混ぜ込んであるそうだ

上にかかっている餡は鶏ガラと利尻昆布で取った出汁である

具材はレタス、カシワ、エビ、椎茸、青ネギ

カシワがやたらとうまい!

さすがカシワ好きな京都だけのことはある

1000円以下の料理に入ってるカシワにしてはかなり上等だ

そして出汁も利尻昆布を使用してるそうで

さすが出汁だけは手を抜けない、いかにも京都である

この料理もまた最初の一口は予想を裏切る味で

「ん?」であった

やたらと柔らかい麺に上品な餡と辛みはほとんどないが香りの良いカラシ

これらが合わさると癖になる美味しさなのだ

そして最初の一口目よりも食べれば食べるほど美味く感じて来るのだ

なんだこれは!

俺は驚きを隠せないままひたすら食べ続けた

そしてまだまだ行けると確信した俺は

焼飯を追加した

京都ではチャーハンではなく焼飯と表記する店が多い

そういえばうちの親父もずっと焼飯と言ってたなぁと思い出す

なんか「やきめし」と読んだ方が美味そうな気がするのも事実だ

隣のテーブルの家族も〆の焼飯を食べている

あぁ楽しみだなぁ

そんな間にも店の電話は鳴りっぱなし

この寒い中、外には並んでる客もいるみたいだ

なんか申し訳ない気分になる

観光客が一人で4人掛けの席を占領してしまって・・・

でも勘弁して欲しい

俺も食べたいのだ

しばし待たされる

店員も休むことなく動き回る

時間がたてばたつほど俺の腹も満腹感が増して来てしまう

これは食べ切れないかもしれないなと思ったその時に焼飯はやって来た

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これだこれである

米が食べたくて仕方が無かった俺である

早速一口食べてみる

「ん?」

これもまた予想を裏切る味だ

かなり薄味であっさりしている

米粒はパラパラしているが油っこさはほとんど無い

すっかり満腹の俺は無理矢理にでも押し込もうと食べる

すると不思議な事にこの焼飯、噛めば噛むほど旨味が増してくる

これもか!

京都の中華は食べれば食べるほど美味くなる中華なのだ

そしてやたらとこの薄味中華が癖になるのだ

あっさりしているので最後まで残さず食べきれてしまう

この焼飯にはタクアンとしば漬けが付いてくる

俺は漬物達を一気に焼飯の上にぶちまけた!!

孤独のグルメで言えばクライマックスの「うまや!うまや!うまや!あああぁ」の場面である

井之頭五郎さん並みにレンゲが止まらなくなった俺は無我夢中で焼飯を平らげたのであった

中華街の人気店などの料理は一口目はやたらと美味く感じる

しかし中華の宿命なのか半分を過ぎたあたりからクドくなり最後には苦痛へと変わる

中華は一品一品の量が多いので一人で食べるには不利である

できることならいろんな料理を食べてみたい

常連客なら全ての料理を半分ずつなんてわがままな注文も出来るみたいだが

流石に一見さんの観光客には無理だ

ある常連さんが毎日食べたくなると言っていたが

まさにその通りのあさっり中華であった

決して絶品では無いが不味くも無い

そんな感じだからこそ毎日食べたくなるのだ

そしてこれが京都の中華なのである

その「ある常連さん」とはなんと!

星を3つも持っている老舗料亭「菊乃井」の3代目であり日本料理アカデミーの理事長でもある人が奥さんとプライベートで食べにくる店だと言う事を、この後で俺は京都の中華を読んで知ったのだった

そして対談を読んで俺と同じような意見で嬉しくなったのであった

 

今でもシュウマイが食べれなかったことが心残りで仕方が無い

直ぐにでもJRに飛び乗ってしまいたい気分である

まさに毎日でも食べたくなる味

他のメニューも試してみたい

ビール飲んで満腹になるまで食べても3000円以下

それでいて凄く幸せになれる味だ

俺のブログなんかは影響力は皆無だろうが

あの「京都の中華」の文庫本はヤバイ

あれのおかげでまた鳳舞系の店にお客さん増えちゃうんだろうな

でも観光客としてたまには食べに行くのを許して欲しい

忙しい時に

一人で4人掛けのテーブルを占拠してしまうかもしれないが

できるだけ沢山食べるので

地元のみなさん

どうか勘弁して下さい

お願いします

 

 

つづく