鯖棒亭日乗(下)

日常の記録写真と駄文  sababoutei@gmail.com

1日15食限定

今日の俺は江戸な気分

江戸っ子でもないのに「てやんでぇべらぼうめぇ」なんて言って見たくなる

しかも右手の手のひらで鼻先を擦り上げながら

「こちとら江戸っ子でぇ!!」

なぜ江戸な気分なのかは午前中に東京と江戸の話をしていたからである

最近は交通費の安さから西ばかり目指していた俺だが久しぶりに東も良いなぁと思ったのである

名古屋で江戸の味

これは実は結構難しい

東京から進出して来た店など名古屋風にこちらの食材を使い味付けも若干名古屋風に変えてしまうからである

俺からすれば余計なおせっかいなのだが俺よりも頭のいい人達が一生懸命調べて決めた事であろう。名古屋で店を出すには味を変えないとダメだって

まぁその話はとりあえず置いといて

江戸な気分だった俺はどこへ食べに行こうか?

いつものようにしわ1つないツルツルとした小さな脳みそをフル回転させた

しかし直ぐに思いつくのは竹葉亭ととり五鐵ぐらいである

どちらも高島屋の上にあるレストラン街

北海道物産展もやってるし今日は高島屋だなとあっさり決定

俺は一路JR高島屋を目指した

エスカレーターに登りぐんぐん上昇する俺だったが途中の階でいったん途中下車しておトイレへ。デパート内のレストランに入る時は事前のトイレが欠かせない

それは各店内にトイレが無いからなのだが。誰か連れがいる時は良いのだが孤独な一人飯の場合はトイレに行ってる間に食べかけの皿を下げられかねないのである

そんな時誰か連れ合いがいれば田中邦衛の物真似をしながら

「まだ子供が食べてるでしょうが!!」なんて注意をしてくれることであろうが

一人飯では誰も田中邦衛の物真似はしてくれないのだ

まるで今日のレースは最初から逃げるぜ的なロード選手のように念のためのスタート前のおトイレを済ませて再び13階まで上昇した

候補の竹葉亭はうなぎなので今日は予算オーバー

なので俺はとり五鐵へと向かった

この「とり五鐵」名前で想像される方もいるであろうがあの鬼平犯科帳の五鐵から名前を頂いているのだ。そして看板の横には小さく日本橋玉ひでと書いてある

何を隠そうこの店は日本橋玉ひでの8代目当主が監修した限りなく玉ひでの味を再現した店なのである

店の前に立つ

メニューを見る

確か800円の親子丼があったはずだがおすすめメニューはどれも高い

さすがに江戸の中期から続く名店プロデュースの店

鶏肉が名古屋コーチンなのが少々気に食わないが

俺はとりあえず店に入ることにした

このとき11時40分

行列を避ける為には一分一秒を争う時間帯である

俺はいつものように天高く右手人差し指をかかげて店員に告げたのだ

「ひとりです」

そしていつものようにカウンターに案内された

この店は右詰めで順番に詰められて行くシステムだ

俺はイスに座った

そして俺の目にある文字が飛び込んで来たのだ

「1日15食限定 東京しゃも親子丼 1550円」

今日の俺は江戸な気分

名古屋コーチンでは満足出来ない体になってしまっていたところに軍鶏である

しかも東京なんて頭に付いてるではないか

これこそがまさに玉ひでの味を引き継ぐ正当派な親子丼

予算オーバーではあったが俺の中で開かれた臨時国会で即座に閣議決定をした

「東京しゃも親子丼と生ビール!」

玉ひで

江戸の中期からつづく鳥料理の店である

本来名代は軍鶏鍋ではあるが近年は親子丼が爆発的人気となってしまった

それもそのはず明治時代に6代目当主の女将が世界初の親子丼を考案したのである

鳥鍋で残った割り下に玉子を綴じて食べる客を見て考案されたのが親子丼である

元祖親子丼

俺が弱い言葉が二つも重なった

「元祖」「限定」

もうこの時点で予算なんか関係なく俺の心は決まっていたのだ

以前もここの親子丼は食べた事がある

一番安い800円の奴だ

ノーブランド肉の親子丼

通常の店のおすすめは名古屋コーチンを使用した親子丼である

これはやはり名古屋なら軍鶏ではなく名古屋コーチンだろうという経営的な判断だったのだろう。そして味も名古屋コーチンように変更されていると世間ではもっぱらの噂である。これは玉ひでの味じゃない!でもこれはこれでアリかなと

そんな時に「東京」の文字である

これはもう食べるしか無いのだ

かつてこの日本橋玉ひでの側には幼少の谷崎潤一郎が住んでいた

まだ谷崎家の羽振りが良かった時代である

近所の玉ひででよく軍鶏鍋を食べたそうだ

そんなことを思いながら感慨にふけっていると登場である

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生ビール

ああ相変わらずキレイだ

俺はさっそくこいつをごくごくと飲んだ!!

キレまくってるこの味はスーパードライ

ちなみに俺の好みはキリンである

まぁ仕方が無いさこの辺りは所詮デパート内の店だ

本来なら各メーカー取り揃えておけよって思うが

ちなみに本家の玉ひでにはオリジナルなビールもあるそうだ

俺は少しがっかりしたがこの黄金の液体をおいしく頂いたのであった

ビールが消滅すると同時に登場である

東京しゃも親子丼が!!

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おお!なかなか美味そうだ

店員さんがしきりにこの漬物はピーマンですとアピールしている

隣の席に配膳された時にも聞こえてきたので既に知っていたのだが俺はあえて知らない振りをして説明を聞いてあげたのだ

そして少し驚くような感じで「へぇ〜」というような顔もしてあげた

マニュアル通りに説明を終えた店員さんが場を離れると俺はおもむろにスプーンを掴み一口食べた

いきなり醤油の味がドカーンと口の中に飛び込んでくる

これが江戸である

最近は関西の上品な出汁の効いた親子丼ばかりだったのでこれは久しぶりに新鮮だ

まさに「てやんでぇべらぼうめぇ」である

玉子のとじかたは俺的には完璧である

ごはんの上に乗っている部分の玉子はしっかりととじてあり

その上の層が半熟なのだ

そして最後に生卵がど〜んと

これが俺の理想である

一番下までジュクジュクで最初からごはんに黄身が染みて行くような親子丼は俺的には「マジかんべんしてくれよぉ」って感じなのだ

次に俺は一番上の生玉子をくずして一口食べた

よりいっそう濃厚な味わいになる

そして赤出しを飲む

これは少々けしからんな

割とあっさりとした美味い赤出しに仕上げてはあるが親子丼の味がドカーンと来るのでやはりここはもう少し白を合わせても良いかなと思う

次に俺は七味をかけてみた

これはいまいち

山椒は個人的には好みである

そして一番はやはり店員がしきりにアピールしていた「ピーマンの漬物」である

正直言われないとピーマンと分からない味ではあるがこれを親子丼の上に乗せて食べるとあっさり感が絶妙に加わりとても良い塩梅になるのだ

できることなら食べ放題にして欲しい所だ

そして俺は一気にバクバクと食べた

ごはんの固さも抜群だぞこれは!!

先日のワンコイン親子丼よりやや柔らかめに仕上げてある

そして軍鶏!

こちらでは名古屋コーチンがはばを効かせている為になかなか食べられない軍鶏

弾力がアリ噛めば噛むほど旨味が口の中に広がる

うまいなぁ

江戸だなぁ

やはり江戸と言えば軍鶏である

この親子丼は玉子と軍鶏のみで構成されている

タマネギや三つ葉など脇役は存在していない

まさに親子

軍鶏と玉子だけなのである

しかしこれが本当の親子なのかどうかはわからない

常識的に考えておそらく他人であろう

でもこれこそが親子丼なのである

血なんか繋がってなくても親子は親子なのだ

誰がこの二人におまえら本当の親子じゃ無いだろうと言えるのだろうか?

これほどうまい親子丼に向かって

そんなことを考えながら俺は完食したのであった

 

 

PS

ちなみに今回の東京しゃも親子丼は100円増しで大盛りにしてあります