「もう霜降り肉は出しません!」
こう言い放ったのは浅草にある老舗のすき焼き店「ちんや」の社長さんである
社長の住吉史彦さんは我々に問いかける
「霜降り肉って本当においしいですか?」
日本人の霜降り信仰により最近の霜降りでは脂肪の割合がロースの平均で50%、中には75%などという強者も登場するそうな
それは明らかに行き過ぎだと社長は話す
そこで今回の爆弾発言
霜降り肉は出しません宣言なのである
今後「ちんや」では霜降り肉の取り扱いは辞めて「適サシ」と呼ばれる肉を使用するそうだ
ではその適サシとは何?かと言うと
まず今の時代子牛の繁殖農家は後継者不足で子牛の相場が5割ほど高くなっているという。そのために肉をブランド化して高く売りたい
そこで日本人の霜降り信仰、脂最高!!に付け込みサシを多めな肉を作り高く売りさばくのだ
食べる側も食べる側で「高い肉イコール美味しい」と思い込んでしまう
牛肉となると1万円出してもそこそこ高価な物しか食べられないだけに、こんな僅かな肉で1万円以上出してるんだから不味いとは思い込みたく無いのもあるのだろう
「ん?少しクドいかな?」と思いつつも我慢して美味いと思い込み食べている人も多いかと思う
これはマグロなんかにも言えると思うが俺は大トロが大嫌いだ
中トロはまだ我慢出来るが出来れば赤身プラス適度な脂
そこで中落ち最高!!となるのであるがなかなか中落ちが食べれる店は少ない
俺は仲卸の甥っ子だったので中落ちはタダで食べ放題だったわけだが
話を牛肉に戻そう
牛肉の脂肪は旨味とは違うらしい
脂肪自体は無味無臭なのだそうだ
旨味は赤身のアミノ酸から来るそうで、美味しいと感じる肉は脂肪の割合が30%だという
牛肉は一般的にはA5ランクが最高だと思われているし事実値段で言えば最高なのだ
しかし専門家の間では肉の評価はAだのBだの4だの5だのアルファベットや数字では評価はしないそうで、B.M.S.(牛脂肪交雑基準を12ランクで示す)を使うことが多く、A5ランクはだいたいB.M.S.の8から12を指すそうだ
で仲間内で「B.M.S.の10とか11は・・・・おいしくないよね・・・」と、なるのである
いわゆる高級店で出される一般受けしやすい最高級肉の部類である
確かに接待などでスキヤキへ
そこでだされた肉の脂が少ないと「君!何だこの肉は!!脂が少ないんじゃないのか?」「こんな赤い肉を食わされるようでは今後、おたくとの取引は考えさせてもらおうか?」なんてことにもなりかねないのである
しかし牛肉の専門家達は自分たちが食べる肉はB.M.S.の7を食べると言う
魚屋が大トロを食べないように彼らも脂少なめを好むみたいである
しかし「ちんや」ではその行き過ぎた霜降り信仰を少しマイルドにしたいみたいだ
それこそが「適サシ」宣言
まるっきり赤身にするのではなく適度のサシが入り、脂肪の融点が低く(30カ月まで肥育した和牛メスの脂)サシの入り方が細かい、いわゆる「これは、いい塩梅・・・・だな」となる肉がやはりおいしいということを伝えること。そのための「敵サシ」宣言なのである
もともと「ちんや」ではBMS7~8クラス、つまりA4ランクとA5ランクの境目あたりの肉を出すことが多かったそうだが今回の敵サシ宣言でBMS6~7に絞ったそうだ
社長自身もこの辺りの肉が一番うまいと思っているそうで、だからこそ一般の人にもくだらない信仰なんか捨てて美味い物を食べよう
本当に美味い物を美味いと言える世の中にしようと言うことなのであろう
俺は大賛成だ
ただ残念なのは俺には高級すき焼きを食べる予算が無い
そして牛肉はカロリーが高すぎると言うことである
そのために最近ではすっかり俺は牛肉から遠ざかっている
医者からもあまり食べない方がいいかもしれないと言われている
コレステロールの悪い奴がたんまり俺の体には溜まっているらしいのだ
しかし昔は京都へ行くとすき焼きを食べていた
東が今半なら西は三嶋亭
ご存知池波正太郎御用達の高級すき焼き店である
本店は寺町三条下ルにある
寺町通りを本能寺へ向けて歩いて行く途中にあるので店の前を通ることも多いのだ
この本店はやや敷居が高い
予算も夜なら最低2万円弱は欲しい
しかし昼なら割と手軽にこの高級すき焼きが食べれるのだ
もちろん肉は夜のような最高級霜降りではないが
それだけにかえってランチ用の肉は
「脂が少なくて・・・・うまい!」のである
1人前8000円から
予約無しでも入れる場合も多い
俺は食べた1人前8000円のすき焼きを
もちろんお金さえ出せば夜用の肉も食べさせてもらえる
しかし俺は貧しい
池波先生などは肉のおかわりを2つ3つやるそうだが、俺には到底無理な話なのである
レトロな室内、老舗の雰囲気でワクワクする
隣のテーブルの女子大生と思われしグループは必死にお小遣いを貯めて食べに来たみたいである
まずは牛肉のしぐれ煮で瓶ビールを飲む
生ではなく瓶ビールというところがやはり高級店である
このしぐれ煮は突き出しなのかサービスなのかは分からない
肉が運ばれて来た。ここからはカラーでお届けしよう
ご覧の通り肉は赤い
まず最初の1枚を焼いて食べさせてくれる
嗚呼、美味いなぁ
適度な脂身なのだがとても柔らかくて口の中で解けてしまう
「もったいない」
もっと味わっていたいのに・・・
すき焼きはテーブルごとに専属の中居さんがついて作ってくれる
俺は旅で京都へ来たこと、今回は仏像見物に来たこと、池波正太郎が好きなこと
など話ながらビールを飲む
1枚目の肉から出た旨味をいかして野菜などが投入される
彼らは決して脇役ではない
肉の旨味を吸い取った彼らは時に我々の心をつかむ
牛肉が少しクドくなって来たとき彼らは主役にとって変わるのである
そして2枚目の肉投入
砂糖と醤油で色もついて来た
なんて良い香りなんだ
後はただひたすら食べるのみ
至福な時間
日本人に生まれて来て良かった
牛さんごめんなさい
ここに来る前に錦天満宮で頭をなでなでさせてもらったのに
ごめんなさい
でも、おいしいです、とてもおしいいです
俺は命を頂き生かしてもらうということに感謝しながらすき焼きを食べたのであった
正直、少々物足りない
肉を追加したい
それがかなわないのならせめて野菜だけでも
否、白飯と生卵だけでもいい
と思うのだが流石に俺にはお金が無い
高額な割には素早いランチを終えて店を後にしたのだった
本店はやはりランチとはいえ8000円である
そこでおすすめしたいのが三嶋亭高島屋店
こちらはデパートの中だけに敷居も低くリーズナブルなメニューが並ぶ
どうしてもすき焼きが食べたい
しかし金が無い・・・と言う時にはコレを
すき焼き御膳2484円
肉は120グラムだったかな?
さすがに少ないが女性には丁度いいかもしれない
そして足りない分は食べ歩きで満たせば良いのである
食べたいなぁ
死ぬまでに1度は腹一杯食べてみたい
そんな三嶋亭と霜降り肉信仰は辞めようと言うお話でした