鯖棒亭日乗(下)

日常の記録写真と駄文  sababoutei@gmail.com

園芸日記 04

ツールが終わった

俺のベランダで咲き乱れていたミニひまわり達もツールの終とともに花を散らせ始めた

一番最初に咲いたひまわりに俺はクララと名付けた

それは俺が彼女が咲いた時にまるでクララが立った時のハイジとペーターみたいに一人ではしゃいでしまったからである

先日BS日テレでハイジのダイジェスト版が放送されていた

2夜連続だったが俺はツールに夢中になりついつい前編を見逃してしまった

今日は見逃さないぞと後編は録画しておいて先ほど少し見てみた

久しぶりに見るアルプスの少女ハイジ

ついこないだツールで選手達が走ったアルプスを舞台にしたお話である

そして俺はハイジを見て愕然とした

大人になった今だから気づいたのかもしれないがハイジとは自己犠牲の話だったのである。分かりやすく言うとエースが美人でお金持ちのクララ。しかし彼女は歩く事が出来ずに車椅子の生活を送っている。そんな彼女を献身的にサポートするのがアシストであるハイジなのである

ハイジは貧しい暮らしの中おじいさんとヤギとヨーゼフに囲まれてのびのびとアルプスの山をかけめぐる田舎のイモ姉ちゃん

対照的な二人だが心を通い合わせハイジはクララの為にクララのアシストとして山を下りる決心をするのである

そんなハイジだったが町での生活は大変辛い物であり夢遊病にまでなってしまう

それでも献身的にクララを支えようとアシストしていたのである

最終的には見事にクララは立ち上がることができた

つまりエースはツールを勝ったのである

アシストハイジの功績は決して記録には残らないが我々の記憶にはしっかりと刻まれていたのだ

そんなクララであるがついに力つきたのである

 

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黄色いマイヨジョーヌカラーの花びらを落としながらも懸命に生きようとするクララ

年老いてすっかり腰も曲がってしまった

同じ時期に咲いたペーターとハイジも同じような状況にもはやアシストする体力も残されていないのかもしれない

まるで老々介護と言う現代の社会問題を見るかのような光景が俺のベランダで起こっていたのである

俺はなんとか彼女達を救えないかとネットで検索をした

すると摘心と言う言葉が出て来たのである

俺はもう一度ミニひまわりの茎の所を見てみた

すると下の方の葉の付け根から新しい小さなつぼみができているではないか

これはもしかして次世代のツールチャンピオンの卵なのか?

クララの遺伝子を引き継ぐ物なのか?

俺は更に調べてた

すると摘心というものをしないと種に栄養がとられて次世代のエースはちゃんと育たないみたいだ

これではまるで日本のロードレース界みたいではないか

摘心

心を摘むと書いて「てきしん」である

その名の通り俺は心を摘まれたような思いでクララ達を眺めていた

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摘心と書けば聞こえは良いがようするに「首を跳ねろ!」と言う事なのである

俺は以前間引きという殺戮行為をした

間引きをしなければクララ達は育たないと知ったからだ

俺はその時も悩みに悩んで間引きをした

今咲いてるエースのひまわり達は多くのアシストの犠牲により美しく咲き誇っているのである

その時の間引きの感触が今も俺の手には残っている

彼らは小さな体ながらもしっかりと土の中に根を張っていたのである

そんな彼らを引き抜いたときの感触が俺は今でも忘れられないのだ

そして今度は摘心をしろとクララ達の首を跳ねろと

園芸は残酷である

エースとして美しくそして短い生涯を終えようとしている者達に俺はとどめを刺さなければならないである

まるで三島由紀夫介錯した森田必勝のように

しかし彼は介錯に失敗して三島由紀夫はかなり苦しんだという事ではあるが

俺はもう一度クララを眺めた

ひん死状態ではあるがまだ生きている

確かに生きている

俺はまたしても悩んだ

悩んで悩んで

この現実から逃げ出したい気分になった

どうすればいい?

俺はいったいどうすればいいんだ?

俺はとりあえず三島由紀夫金閣寺を読み直そうかとも思ったがそんな時間は今の俺には無かった

そして俺はまた再び心を鬼にすることにしたのである

これも次世代のエースを育てる為だと

俺は森田必勝のような失敗をしない為に切れ味抜群の坂源のハサミを使う事にした

「すまん」

俺はひと思いに彼女達の首を跳ねたのである

 

 

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そしてまた俺は心の中でそっと般若心経を唱えた

 

 

これが正しい行為だったのか

今の俺にはまだ分からない

今後クララ達の才能を引き継いだエースが誕生するのか定かでは無い

しかしもう後戻りは出来ない

絶対的なエースとしてジロを二回制したバッソも最後はコンタのアシストとして走る道を選んだのである

スカルポーニもかつてのライバルであるニバリを献身的にアシストしている

そんな彼らみたいにクララも最後はアシストとして死ぬ事を決意したのだ

俺はそんな彼女達の思いを無駄にしては行けない

 

 

「きっとまたキレイな次世代のエース達を咲かせてやるからな」

 

 

 

 

これが俺のひまわりの約束である